わたしが沈んでる上を
桃が流れていく

わたしは ここで洗濯してきた
ずいぶん長いあいだそうしてきたのに
桃などいちども流れてこなかった
と思いながら見上げている

桃はどんどん遠くなる
どこかで
どこかの洗濯女が拾うのだろう
わたしは沈んだまま

桃はどんどん遠くなる

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ふるさと



ふるさとへ
自分を見逃しにいくつもりで
あんまり思いつめて来たものだから
とうとう方向がわからなくなってしまって
知らない祭りの中に踏み込んでしまって
動きがとれないまま
まわりのまねして
でたらめを踊っている
うちに
..............

止まらなくなってしまって

..............

見逃しに行くはずの自分も失くしてしまって

..............

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かいき



おもてから息急き切って来て
あれが帰ってくると言う
じゃ迎えに行かなくてはと
家を出た
ふるえているので
両手をぎゅっと にぎりしめて急ぐ
向こうから来る人に
そんなに急いでどこへ行くのと声をかけられ
あれが帰ってくるから迎えにと言うと
その人は悪い事でも聞いたように
そそくさ行ってしまった

わたしは急ぐ
いくら急いでも なかなか村からは出られない
わたしは急ぐ

いくら急いでも なかなか村へたどり着けない
急いでいるわたしの耳に
遠くからかすかに声がする
あれが帰ってくる
あれが帰ってくる

注:息急き切って来て(いきせききってきて)

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「川」 2012.4.13 / 「ふるさと」 2012.4.13 / 「かいき」 2012.4.28 /