詩篇

 

 








かっとう



うさぎうさぎ、うたう
かわいいしろいうさぎ
うさぎうさぎ、つぶやきになる
うさぎうさぎ、となえだす
うさぎうさぎ、だんだん言いつのりたくなる
うさぎうさぎ、返事もしないうさぎ
もっともっと言いつのりたくなる
うさぎを彫っているわたし
夜の樹液のときめきがぽたぽた言い返す
うさぎの痛みがかんかんはねかえす
いくら彫っても逃げてしまううさぎ を
彫っているわたしが机の上にもたんすの上にもいる
かみさまかみさまいくじなし
うさぎを彫っているわたしが戸棚からひきだしからどこも
かしこもいっぱいにふえて
逃げだすうさぎは戸口であらそっている
かみさまかみさまろくでなし
やあっほうやあっほう
間のびした声がおもてを通る
未完のうさぎまでもがきだす
かみさまかみさまはくじょうもの
おもてをふんがふんががたいこたたいて通る
うさぎのときめきがきき耳たてる
わたしの痛みがかんかんはねかえる
かみさまかみさまかみさまかみさま
うさぎうさぎうさぎうさぎ
うさぎうさぎ、うたおう
うさぎうさぎうさぎうさぎ
彫っても彫っても逃げてくうさぎ

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でんわ



あたりがみんなはりつめて、キーン
いま、でんわが鳴る!とおもってしまう
耳の中を水音がはげしい
しゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわ
しーっ、
でんわが鳴ってもきこえなくなっちゃそうだ
水音はわたしの首をひたし手足をひたし
ずうっとわたしの水底を通りぬけて
しゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわ
川音にまじってしまう
舟をこぐ音もまじってくる
せんどうのくせに川におぼれた
ゆするゆするゆするゆするゆする
舟唄なんかうたっているうちにとつぜん
じぶんの重さに気づいてしまった
水死体が足をからませてくる
ゆるすゆるすゆるすゆるすゆるす
なんだかすこしあったかい
魚の群がわたしの鼻をつっつく
わたしのにおいがちらばる
いい匂いのするれんしゅうにかよったのに
まだこんなにおいしかしない
むこうの橋を渡っていく足音もする
いつも渡っていくだけで
帰ってきたことがない
まただれか渡る
ひょこひょこあぶなっかしげに 泣いてるようだ
つごうがわるくなるといつもへんとうせんになっちゃった
という女
へんとうせんは少年しかかからない病気だとおもっている
ので、わたしのなかで
あの女のからだがみんな膨脹している
それに気づかないであの女も橋を渡っていく
わたしが橋を渡っていく
あのわたしも帰れなくなるのだ
しゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわ
水音はでんわ線の中にまで流れこんで
どこからかかってきても、もう
わたしのでんわは鳴れない

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おけいこ



あいにうえておんな
かきくうけいこ
巣刺しせんそう
立ちつ手で戸を
なにぬかすの、ねえ
歯火をふく塀も帆も
間を見て無にするメモ
やい、言えよ
らららりりるってれろ
わいわい言い言い上を上を
ん、ん、ん、

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方法



水の入ったコップのなかで
とけている
こういう方法もあったのだ

焼却炉に火をつけてから、古い衣類の下に
むかしいっしょに暮したおとこがいるのに気づいた
ねているのか死んでるのかわからない
こんなところで!ばか!
みんな焼けてしまえば過去は消えちゃうから
よかったんじゃないという声がする
においでわかっちゃうでしょ
どうしようと思いながらおもて通りへでると
男と女が通りかかったトラックにとび乗ろうとしている
とうとう男だけ乗れて女は残されたまま泣いている
気になるけど、じぶんではあんなひどいことをしたまま
他人のことなどかまえないから通りすぎる
雑踏のなかで
ちょっと話しませんかと声かけられる
まあかたくならないでお茶でものみながらと言っている
逃げたいのにからだが硬直してしまって自動的についていく
おでんやに入ってあったかいにおいをかいだとたん
からだが楽になって逃げだす
家に帰ると焼却炉はまだ燃えている
置き去りにされた女のことなど考えながら
それから……

水の入ったコップのなかでとけている
わたしは五円玉とおなじかたちの錠剤で
その穴から空気も吸うしものを見たり聞いたり考えたりもする
コップの底からわきあがるかんせい
こういう方法もあったのに
焼却炉はちゃんと燃えきっただろうか

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夜の庭のさくらの下におとことおんながいる
ここからは舞っているように見える
おんなの目から海があふれている
おとこの目から魚のむれがあふれている
魚のかたちがいいとおもった、とたん
わたしは鞭うたれる
おんなの目から波が荒くなる
わたしの手のなかに魚がまよいこんできそうな気がした、
とたん わたしは鞭うたれる
きのうまでずっと雨降りがつづいていたのに
こんやはこんなに晴れている
やっと上がった雨なのに
いま雨のことをおもっている
手のなかで魚がはねた気がした、とたん
わたしは鞭うたれる
魚をうつくしく食ったことなんて一度もない
おいしそうなところ箸でつっつきやすいところを
もそもそ食う
魚のかたちはいいとおもった、とたん
わたしはまた鞭うたれる
おんなの姿がその目からあふれる海に散っている
おとこの姿がぜんぶ魚のむれになる
わたしの手のなかで魚があふれるとおもった、とたん
わたしは手がしびれていく
魚をうつくしく食うなんてことはできそうもない
こうすれば骨まで食えるのに
えっ?
わたしの手がもっとしびれていく
魚がわたしの手を食っている
うつくしく食われるのは気もちがいい
魚をうつくしく食ってみたいとおもいながら
魚にうつくしく食われながら
夜の庭のおとことおんなを見ている
ここからはやっぱり舞っているようにしか見えない
おんなの目から海がおとこの目から魚のむれが
おしよせてくる音がはげしくなる

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月夜



卒塔婆小町
わたしがひとり
卒塔婆小町
わたしがふたり
卒塔婆小町
わたしがわたしがわたしがわたしが
わたしが檻からあふれでる
卒塔婆小町
胸に実るぶどう
背におおいかぶさるあけび
卒塔婆小町
へびをふむ
へびは器用にだっぴしてわたしはおきざり
あれから時間はただこぼれるばかり
卒塔婆小町
わたしの半転
遠くから海の音が満ちてくる
わたしの痛みが狂いだす
雨も降っているのですか
卒塔婆小町
千年まえのべにの匂いする小袖の色の記憶をたどる
卒塔婆小町
わたしの咳がとまらないのは
冴えすぎる月のせい衣の古さをあばくせい
わたしの咳にからまりついて古い衣は裂けつづける
卒塔婆小町
わたしがひとり
卒塔婆小町
わたしはひとりわたしはひとり
わたしは檻を見失う
卒塔婆小町
わたしがひとり

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わいざつ



きのこになる
わたしっぽさを気にしいしい
きっ、と動くぽさ
檻へわたしっぽさを押し込めばぽさぽさ
ぽさぽさ押し込みすぎてかぎがこわれた
ころがりまわるわたしっぽさ
きのこになるくすぐったさ
思いこみだけの変身術は演劇ではないのです
そんなこと言われながらわたしもそう思いながら
きしむわたしっぽさ
きしむわたしっぽく
木をいっぽん、あっちこっち移してみても
演劇にはならないのです
そんなこと言われながらわたしもそう思いながら
きのこになるにはいっぽんの木の位置が大切だ
わたしっぽいきのこになろう
きっ、ときしむわたしっぽくきしむぽくぽく
きのこになったら
からだゆさゆさ
風をまとってあたりじゅうまとってゆさゆさ
そのとき、あの女からでんわが鳴る
あなたはきのこになってはいけないのです
あなたはきのこになれないのです
きのこになるのはわたしだからです
あの木もわたしのものです
そう言って、言うだけ言ってがちゃん!
やっとわすれかけた頃に
もう少しというときに
いつもいつもそのでんわが鳴る
ほんとはあの女のような狂気が必要なのだ
それにまどわされないほどのわたしの狂気も必要なのだ
もう少しのところで、まだ
きのこになれないまま
きのこになったら
からだゆさゆさ
風をまとってあたりじゅうまとってゆさゆさ
わたしっぽさを
きっ、と動かしてゆさゆさ

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ごろつき



ごろつきまりつきうそをつき
あかつきかねつきあしがつき
けちつきひもつきうんもつき
はなかむまめかむほぞをかむ
かんでもかんでもかみきれない

ろくでなしいくじなししぶいなし
おやなしひろっていえもなし
はらくくりにをくくりくびくくり
くくりそこねたくくりぞめ
おまえたちおいたちついたちはたち
いでたちかおだちさきにたち
はらたちおもいたちたびにたち
かまいたちさかだちゆめにたち
しめいてはいのふだがたち

なわないあわないやるせない
はかないうらないらちもない
きがないてがないやりきれない
みもないふたもないきりがない

ごくつぶしのみつぶしかつをぶし
ひまつぶしにきびつぶししらみつぶし
うわのそらそらへんじそらなみだ
そらみみそらまめえそらごと
そらぞらしいほどあおいそら

おもいつきもちつきいいてつき
ふだつきはりつきくらいつき
きつつききづつきちからつき
やみつきぶらつきそのつづき
ねつききつねつきつきないはなし
めつきとしつきはるのつき
ごろつきいたにつきはなにつき
こぶつきまごつきそこをつき

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宇宙



もんじょろもんじょろしょうわるおろく
むらじゅうのあおむしくいつくし
むらじゅうのけむしくいつくし
むらじゅうのかきくいつくし

ひとのこどもをくいつくし
じぶんのこどももくいつくし
ひとのていしゅをくいつくし
じぶんのていしゅもくいつくし

もんじょろもんじょろしょうわるおろく
じぶんの手足くいつくし
じぶんのこころもくいつくし
じぶんをみんなくいつくし

もんじょろもんじょろしょうわるおろく
くってもくってもきりがない
もんじょろもんじょろもんじょろろ
もんじょろくうふく深まるばかり

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別れ話



ひろ場には大勢ひとがいて
すこしはなれた向こうに
ひと組の男と女がいる

なにかあったら大変ですから
もっとさがってさがって、と
警備員が言っている

これからあの男が女に別れ話をするらしい、と
ささやく声があちこちでする
あんなにおとなしそうなひとなのに?
わかるような気もするな
さわさわさわさわはなし声が高まっていく
と、とつぜんわたしは鼻をまるごと噛まれた

別れ話がつげられたらしい
怒った女がわたしの鼻を噛んだのだ
あんまり急なので痛みも感じないほどだ
だいじょうぶですか
警備員に言われて鼻をおさえると、少し痛い
向こうには、もう女も男もいない
いまは、わたしをとりまいて
みんながこっちをみている
ここまではきこえないが
きっとわらわれているんだろう
なんでわたしの鼻だったんだろう
どうしてわたしはここにいたんだろう
だんだん痛みが増してくる
わたしの鼻は、もう
もぎれて、もとにもどらないだろう

たぶん、これから
わたしが別れ話を言われるのだろう
みんなはそれを待っているのだろう

── 99.5.20.(改稿 5.28.)

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食われている



井戸の底で、わたしは
井戸に食われている
井戸の咀嚼がゆらゆら波紋になる
食われる痛みから透き通ったものがたちのぼる
その冷めたさをさわってみたくて
手をのばしても
のばしてものばしても
もう少しのところでとどかない
井戸の咀嚼がゆびさきに響いてくるばかり
もっと手をのばしてものばしても
もう少しのところで
ただ響いてくるばかり

── 99.5.20

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わたしの置場



いま、わたしはじぶんの置場がない
居場所はある
欲をいったらきりがないが、まあまあだ
その居場所にすわっていると
置場のないわたしのことが気にかかってくる
だんだんわたしの比重がそっちへ重くかたむいて
ゆらぎだす
しまいにはわたしぜんぶがゆらぎだし
わたしは居場所からもずり落ちる

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ね息



夜なかに
こどものね息がしている

こどもなんか
どこにもいないのを知っていて
そのね息をきいている

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かたん、かたん



かたん、かたん、かたん、
あんたはこんやも来てるんだね
あしおとのような
なきごえのような
さむい風のおとさせて
かたん、かたん、かたん、
(ねむらなくちゃ ねむらなくちゃ)

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かんけい



くぎぬきにくい
くぎぬきにくいくぎ
ぬきにくいくぎにくいくぎぬき

── 1999.9.10 ──

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からす



このあたりに住んでいる一羽のからすが、
朝から大声でひとりごとを言っている。
かあかあ、か、か、か、か、かあかあかあかあ、かっ、かあ
にんげんが思っているよな、単に鳴いているのではない。
彼女(たぶん)は誰かに向って話しているのだ。
相手らしいのは、その近くに見あたらない。
いない相手に向って、大声でしゃべっている。
公園のベンチで、老女が、大きな袋を両わきに置いて座っている。
と、とつぜん立ちあがり、
「ほら、おまえ、これも持っていきなさい。それからこれもね。
ほんとにもう、いつもこうなんだから‥‥いつも言ってるでしょ!
いつも言ってるんだから‥‥ほら、ほら、これも、これも‥‥」
と言いながら、こっちの袋のものを、そっちの袋へ移している。
全部移し終えると、ああ、とため息ついて、またベンチに座る。
しばらくは、満足気に、あたりの風景を見まわしている。
彼女はいま、遠くに住んでいる娘が里帰りして来ていたのを、
みやげをたくさん持たせて、送りだしたつもりなのだ。
ほんとは、彼女の娘は、もう何年も行方も知れずで、
待っても待っても音さたなしで、彼女は、少しづつ狂っていく。
彼女はまた立ちあがり、さっきいっぱいにした袋から、
もうひとつの袋の方へ、もう一度移し入れながら、
同じセリフを言っている。
向こうのベンチに並んで座っている数人の老人たちが、無言で、
芝居を見ているように、彼女を見ている。

ひと休みしていた彼女が、両手に袋をぶらさげて、
別のベンチに移り、同じセリフと動作を始める。
向こうのベンチの老人たちの目が、いっせいにそっちへ移る。

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まがり角



その角をまがるたび
首がひとつ落ちる場所がある
それを気にしているわけではない
ふだんは忘れている
その角をまがって、首が落ちてから
この角だったと思い出すのだ
首が落ちる音がするわけでもない
痛みがあるわけでもない
あっ、首が落ちたと思うのだ
無意識に首に手をやると
新しい首がある
どう変っているわけでもないが
これは新しい首だとしか思えないのだ
少しぎごちない首をこっそり動かしながら
次の角をまがる頃はその首になれている
それだけのことだ

── 2003.2.14 ──

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ほけんね息



死んでからもう五年目かと思っていると
むこうから彼が来る
ずいぶん元気そうだけど
五年目ぐらいが一番あぶないというから
こんどこそ大きなほけんをかけとこうと考えながら
目が覚めた

── 2003.2.14 ──

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手っ外し



よく手っ外しする
あっ、と思うより早く
もうちゃわんが割れている
大切なものほどよく割れる

わたしも
わたしの神さまによく手っ外しされる
あっ、と思ったときには
わたしは目まいがしている
わたしはちゃわんのように買い代えられないので
あっちこち、ふちが欠けたままわたしをつづける
ふっと腕の力がなくなる瞬間があるのだ
目まいがする
わたしの神さまも腕の力がなくなる瞬間があるのだろう

── 2003.2.14 ──

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そとの井戸端で米を研いでいると
風が出てきて、空が曇った
そろそろあれが着くころだと思っていると
おとこが来て
よろしくたのむよと言う
わたしはごはんの仕たくしてるんだから
あんた行きなさいよあんたの友達なんだから
と言っても
たのむからと逃げて行ってしまった
言われた場所へむかえに行くと
舟はもう着いていて
舟には新しい白木の柩が乗っていて
蓋をとるとただからっぽだ
あれは来なかったのだろうか
それとも柩があれなのだろうか
風はますます強くなって雨も降ってきた
とにかく柩に縄をかけてひとりで引っぱってきた
柩をそばに置いたまま
研ぎかけだった米を研いでいる
米を研ぎかけにしたことを悔んでいる
あれは来なかったのだろうか
柩があれだったのだろうか
おとこは帰って来ない
米はいくら研いでも
水が白くにごったまま
いつになっても研ぎ終らない
雨にずぶぬれながらまだ米を研いでいる

── 2003.4.27 ──

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あっ、



透明だったのが
すこしづつ曇ってくる
その空間のあちこちから手が生え
わたしを押し沈めている
所在ないわたしの手までがいっしょになって
じわじわ
わたしは沈められている
その人がそばを通ったとき
あっ、と言ったような気がする
首だけでふりむく
むこうもふりむいている
あっ、という声を
むこうも聞いたと思ったのかもしれない
わたしたちには
自分では気づいていない殻があって
それがふれあった音だったのだ
音は
あっ、という声のような音なのだ


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静か



むしゃっ、
熟柿を食う

ぺしゃぺしゃぺしゃ
熟柿を噛む

ぺしゃぺしゃぺしゃ
性悪る婆あの口音だけが
家中を占領する

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そうちゃん



首をひろった
まだあったかい
どんなことがあったんだろうと思っていると
そうちゃんがね、と首が言う
するとわたしはずっとまえから
そのそうちゃんを知っているような気がするのだ
そうちゃんがね、
今朝起きたらいないからさがしに出てきたのよ
だってそうちゃんは病気なんだからね
わたしがそうちゃんを捨てることはあっても
そうちゃんがわたしを捨てるなんてことあるはずないのに
そうちゃんたら
ゆんべねむっているわたしを柱に結いつけて
出ていってしまったらしいのよ
今朝になって気がついて
いくらもがいてもほどけないで
あんまりもがいたものだから首が落ちちゃって
だからこんな姿でそうちゃんさがしに出てきたのよ
あんたでしょ
あんたがそうちゃんをそそのかしたんでしょ
だからこんなところでわたしを待ちぶせしていて
こんな姿のわたしをどうしようっていうのよ
と、その首がわめく
そうだ
思い出したのだ
今朝起きたらそうちゃんがいないので
わたしはそうちゃんをさがしに出てきたのだった
わめいている首をかかえて
そうちゃんをさがしてあるく

── 初稿=年月不明、完稿=2003.4.27 ──

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青い旗客



熱がある
青梅のすり下したのをてぬぐいに包んで
ひたいにのせてねている
青い旗の行列が行く
風にばたばたはためきながら
通る人の思想にこびたりしながら
行列はいくらでもつづく
ひたいの上のてぬぐいがぬるくなってくる
無印のまま
青い旗の先頭はもう遠すぎて見えない

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折りたたみ線



その折りたたみ線から
わたしの知らないわたしが起き上り
他人の仕草で遠ざかって行く
その折りたたみ線を
指でなぞると
びりびり電気がきて感電しそうだ

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わたしの中の井戸



いちど わたしの中の井戸をのぞいてみたい
その水に手をひたしてみたい
飲んでみたい
わたしの中の井戸なのに
どのへんにあるのかけんとうもつかない
こんな嵐のときは
その井戸の水が増して
わたし自身がのみこまれるのもいい

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