日めぐり1

 

 




日曜日



西の納屋が牢屋になっている
わたしが朝食を持ってきたとき
まだ祈りの時間で
裸の男たちが三方の壁に向いてならんで
みぎ手を壁につきひだり手で男根をにぎって
黙想している
もうずいぶんまえから
牢屋になっているのに気がついたときから
ずっとああしている

おもやは
弟の家族が住んでいる
きょうはにちようびなので
こどものわらい声もする

日がくれてくる
風も寒くなってきた
食事はとっくに冷めている
祈りはまだ止まない


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じゆう



灰いろのものたちが
きれいなおんなをつれてきて
きょうからおまえの牢にこの人を入れるから
おまえはじゆうにしていいという
しんせきの人やきんじょの人がいっぱい来て
よかったよかったとなみだをこぼしてよろこんでくれた
だからわたしはよかったのかもしれない

わたしは牢のもけいをつくっている
おもいだしだしつくっている

灰いろのものたちが帰っていく
もけいの牢ではもけいのわたしが
そのもけいの牢をつくっている
いくらもけいをかさねても
あの牢にはとどかない


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人切れ
蓋切れ
耳切れ
夜切れ

いつ切っても
無きず
ななめに
矢さし
ここと切って

とうとう切れず

風だけ
ふいている


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真珠売り



真珠売りになって
ぶた飼いのところへくると
ぶたに真珠は用ないから
ここでぶた飼いになれという

わたしのしごとは
ぶたにえさをやることと
その肉を剥ぐことだ
いくら剥いでも肉は次の朝には
もうちゃんともとどおりになっている
わたしは毎にち肉剥にはげんでいる
ひれ肉はひれ肉の箱にロース肉はロース肉の箱に
きちんとつめて
商人と取りひきするのもわたしのしごとだ
ぶたはとてもわたしになついている
ここへきてから
わたしはとてもけんこうになった

真珠売りがきた
ぶたに真珠は用ないから
ここでぶた飼いになれといって
しごとをおしえた

この頃わたしは日ましに肉づきがよくなる
ぶた飼いはわたしをとくに気に入っているらしく
毎朝いちばんにわたしの肉を剥ぐ
だからわたしは毎にち朝からえさをたべるのに忙しい


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バスを待っているとき こがらしに吹かれて
わたしはみっつにちぎれた
いちのわたしが にのわたしに
おまえはむこうがわから乗れといった
にのわたしはだまってそうした

いちのわたしがバスに乗るとき 残ったわたしに
おまえは次のにしろといった

待っても待っても次のバスはこない
残ったわたしの寒い耳の中へ
おまえがそこでじゃましているから
バスが行かれないのだ と
とおくからきこえてくる
こがらしがひどくなる
わたしはもっとこまかくちぎれそうだ

これをかたづけなくちゃあ どうしようもないなあ
灰いろのものたちが
わたしを見ながらいっている

雪が降ってくる
あとからあとから降ってくる

もうすぐぜんぶ溶けるから と
灰いろのものたちがとおくへさけぶ
雪にわたしが溶けている
わたしがぜんぶ溶けないうちは
バスがこないのだ
雪が降っている
あとからあとから降っている


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訪問者



あなたは自分の指にほうたいを巻く
けがをしたのはわたしのゆびなのにあなたは
自分の指にほうたいを巻く
わたしのゆびがあおざめるとあなたは
あわてふためいてもっときつく巻きつける
けがをしたのはわたしのたったこゆびだけなのに
あなたは
自分の指みんなにほうたいを巻いてもたりないで
とうとうありもしない六本めの指にまで
ほうたいを巻いて
あなたは
わたしのくびをしめにくる


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ねや



どこかで
きつねの遠吠えがする

わたしの骨を積んだ山車が
まくらもとを通る

ちがうよ
よく見てごらんよ
あれはおまえにつかまった鬼の骨だよ
少年が
そう言い言い通る
まってよ
あんたまだこどものくせに
なんでそんなにいそぐのよ
きつねの遠吠えはまだ止まない

おまえにつかまって鬼になるなんて
やだからね

少年は
もうとおくへ行ってしまったらしい
骨を積んだ山車がまた通る

きつねの遠吠えは
まだ止まない


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こころの骨



耳あかなんて
そんなものじぶんでほじるものじゃないわよ
ほら、かしてみなさい
むりやり耳かきをとってほじってやると
白い半透明なものができた

やめろよ
だからおまえはやなおんななんだ
おまえも死んでみろ
よくわかるから
こころの骨ぐらいそっとしといてくれ

こころの骨というやつは
ざしきのすみへころがっていって
かたかた鳴っている

ふん、おとこのくせにいじましいんだから
そんならそうとはじめから言えばいいじゃないの
いまごろになって……


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