・道草

・不幸
・だいこん




道草



その草に 灰色のつぼみが ひとつあって
中をのぞいてみたら
深い井戸だ
清水がぜいたくに気に湛えられている

おーいと叫んだら
水の中からわたしが ぬうーっと浮き上がった
顔にそのつぼみが へばりついて痛い
もがきもがき やっと引き離すと
つぼみは少し開きかけていて
こんなところで道草喰ってなんかいないで
早く行きな と言った
わたしはどこへ行くところなんだろう

注:
ぜいたく気(げ)に 湛(たた)えられている

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不幸



からだ半分海に浸かった母が
いい匂いのするごちそうの入った籠を
高く持ち上げながら
あついうちに食べるように
早くいらっしゃーい
と にこにこしながら呼んでいる

砂の上から起き上がって
わたしがかけ寄ろうとすると
母はそれを避けるように
左へ右へ移動しながら
だれかを呼びつづけている
海の方にも
陸の方にも
母とわたししかいない
荒い波と
寒い風の
海辺だ

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だいこん



あれが
だいこんになって家の前にいたのだ
交番にそう言い行くと、おまわりさんは
だいこんですかぁ だいこんじゃあねぇ
われわれにはどうしようもないですな という
だいこんじゃだめですか

ええ だいこんが家の前にあったからって
いちいち警察が出て行ったらどうなりますか?

でもあれは 本当はだいこんじゃないんです
わたしへの嫌がらせなのです

でも見た目はただのだいこんなんでしょ

じゃあ、どうすればいいんですか

食べちゃうか
捨てちゃうかしてください
そうすれば相手もあきらめるでしょう


まさか食べるわけにもいかないし
ごみに出すわけにもいかないから
わたしはこのだいこんを
わざと大げさに葉っぱのところをにぎって
ぶらぶらゆさぶりながら
遠い山の中へ埋めに行くところなのだ
どうしてあれがだいこんになどなったかは言えない

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