日めぐり2

 

 




ひつじ



土間からざしきから家じゅう
ひつじがぎっしりうごめいている

これの場所も少しあけてやってくれ
父がひつじたちにいう
ひつじなんか外で飼えばいいのに
いまではおれのほうがひつじに飼われているようなものだ
と父はいう

おくのざしきで
母がカーテンをつくろっている
おまえのへやのカーテンだという

わたしのへやなんてありもしないのに
おまえがぶきようだから
ちょっとの風にもすぐやぶれてしまうという
風なんかぜんぜん吹いていないのに
母がつくろうそばから
カーテンはもっとやぶれていく

食卓のほうでもひつじの声がする
花のサラダのいいにおいがする
ひつじの肉を食べるなんてことは
もうけしてないのだろう

あの頃はずいぶんひつじの肉たべたね
いつも伯父さんが殺して
肉はやまもりいっぱいあって
きんじょへもくばって
あの頃はよかったね
ひつじは小屋の中でおとなしかったし
なにもかもみんなちゃんとしていたものね
ひつじの数はふえつづけている
家からあふれて
庭からもはみだして
はたけもめちゃめちゃにして
もう山のむこうのほうまで


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かいこん



にくんでにんにく
はじかいてにんじん
やまいもかかえて
やまおりる

にくんでにくんで
にんにんくぎらい
はじかいたまんまで
にんじん煮る
にくみにくみやまいも
すりおろす


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月曜日



こよりを撚るには
ろうそくの灯がよく似あう
おんなが集って
こよりを撚る
おたがいだれのこともなんにも知らないまま
白い布でか
らだをおおって
むごんで
こよりを撚る

仕事は
夜はじまる
いちばんさきに来たものが
ろうそくに火をつける
こよりは
よあけまで撚る

こよりは
千本ずつ箱につめておくと
帰ったあと
とりにくるらしい
こよりを撚る理由も
こよりのゆくえも
知らないまま

こよりを
撚る


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ねぎ



せんたくやの店さきで
このねぎを洗ってくださいとたのむ
9本ありますというと
そんなこといちいちいわなくても
ちゃんとやりますよ
どこのうちでどのくらい必要かぐらい
調べてしょうばいしてますからねとおこっている
わたしはわたしが必要なだけもってきたのですといい返す
みんながわらっている
わたしだけ浮きあがってるみたいで気まずい

店のまえはあき地になっている
そんなに心配しなくてもだいじょうぶよ
あっちでゆっくりしていたら
おんなのひとがそう言い言いむこうへ行く
あき地には人がいっぱいいて
おもいおもいにかたまって話したりしている
そこにはわたしのともだちも知人もいない
けど、ひとりはなれているのもなんだかみたいで
あるきだす
とちゅうねぎの葉っぱをふんづけて
すべってころんだ


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花火



Kさんが死んだ
四つ辻までくると
KさんのおくさんとむすめのEちゃんがいる
あのひとはね
あのとしになって背がのびつづける病気でね
死んでからまでのびつづけているのよ
だから早く済ましてしまわないと困るんだけど……
おくさんはおろおろしながらはなしている
Kさんのお棺はとほうもなく長い
長すぎて霊柩車へ乗らないので
それより長いリヤカーを持ってきて
男たちが右往左往している

みんなで貸切バスに乗って
川土手を走っていく
花火があがる
いくら行っても土手ははてしない
ときどき花火があがる
きれいだね
こんやの花火はとくべつきれいだわ
Kさんのおくさんがいう
また花火があがる
もうだれもKさんのことなんか忘れたように
花火に見とれる


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火曜日



かもじを入れて髪ゆいあげて
ゆもじひとつではだしになって
しゃもじかついでデモに行ったきり
かえってこないおかあさん

わたしのわもじへからみつき
わたしのたもじをしょぶんして
わたしのしもじにいちゃもんつけて
しゃもじかついでデモに行ったきり
かえってこないおかあさん

おだまり
日だまりで
火だるまになって
わたしはわもじにわをかけて
わたしはたもじのゆくえを追って
わたしはしもじを書きなおし

しゃもじかついでデモに行ったきりかえってこないおかあさん


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水曜日



橋のうえで
目があったとたん
おとこは魚になって
自分を地面にたたきつけている
血がにじんできたのに
たたきつけてもたたきつけてもまだ
たたきつけきれないものがあるように
いつまでもやめない
わたしは通りすぎてしまうこともできるのに

川おとが冴える
そのほかはみんなしずかだ
わたしは通りすぎてしまうこともできるのに

おとこはまだやめない
川おとが深まる
わたしは通りすぎてしまうこともできるのに
魚のにおいが濃くなる
わたしは通りすぎてしまうこともできるのに


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かいだん



家へ帰ると
  そこいらじゅうねずみが走りまわっている
かまどの中にむかしからいる猫がいる

北がわのかべに
牛と山羊の首がかかっている
わたしの少女のときの首もかかっている

土間で弟妹たちが食事している
ここだけ古い西洋画のようにしずかだ
食器戸棚をあけるとかいだんがある

かいだんをおりていく
おりてもおりてもかいだんはつづいている
だんだんおなかがすいてくる

かいだんをおりると土間で
弟妹たちが食事している
食器戸棚をあけるとかいだんがある

かいだんをおりていく
ますますおなかがすいてくる
おりてもおりてもかいだんはつづいている


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