でていった (銀の鈴社)

・雲
・ゆらゆら
・はる
・さんかくじょうぎ
・少女
・ゆうぐれ
・山
・ねつがあるの
・月
・ほし
・なくしもの
・はるかぜ
・朝
・けんか
・さよなら きらきら
・青い骨









ふわあっと
おおきな
雲になって
もっと
おおきくなって
だんだん
じぶんで
こわくなって
こんどは
そおっと
たぐりよせたら
だんだん
ちいさくなって

雨になって
ぽつん
おちた



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ゆらゆら


はるが
ゆらゆら
いいきもちで
むこうの
やまを
みたら
やまも
ゆらゆら
きもちよさそうに
わらって
いる

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はる


きら きら きら
ひかる おがわ
きら きら きら
はるが
うつっている

ふふ ふふ ふふ
かぜが わらう
ふふ ふふ ふふ
はなが
まどを ひらく

あら あら あら
まあ! はだしで
あら あら あら
あのこも
とびだした

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さんかくじょうぎ


あたらしい さんかくじょうぎ
きょう いちじかんめの
さんすうのじかんに
はじめてつかう
さんかくじょうぎ

てに もって
かざしてみると そら
すこしまがっている そら
まんなかに
おひさまが きらきら

つくえのうえに おくと
がいこくの
あたらしい まち
ぴっかぴっかの ビルディングが
ならんでいる

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少 女


少女は 病気
きょうも 病気
少女という 病気

先生が
こくごの時間に
─きょうは 詩を書いてみましょう
と おっしゃった

いまは
五時かん目
まどのそとの
ドラマの みわく

少女は
でそうになる あくびを
かみころした

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ゆうぐれ


ぼくのうたが とおる
ああ ああー ああ ああー と
かなしげに
とおる

かわいそうに
と かぜがいった
はやく うちへおかえりよ
と ゆうやみがいった

ぼくのうたは
なんにもきこえないように
しらんぷりして
とおる

どこまでいくつもりなんだろう
ああ ああー ああ ああー と
もう ずうっと
にしの ほうへ
いってしまったらしい

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だれかあ
おれを
しっているかあ
おれの
なまえを
しっているかあ
だれかあ
しっていたら
おおきなこえで
よんでみてくれえ

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ねつがあるの


これは
かみさまからの おくりもの
きらきらしている ゆめをみたの
うつくしい たまを ひろったの

わたしは
こんなにねつがあるの
まだ ゆめから ぬけだせないの
これも
かみさまの おくりもの?

きょうは
わたしは おひめさま
ねつのおしろの
おひめさま
かみさまの おくりものの
おひめさま

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あれは
ゆめのすむ いずみです
わたしのゆめも あそこから
まい夜
おりてくるのです

あれは
ようせいの かがみです
うすごろもさえ おもそうに
きせつを きがえるときに
つかうのです

あれは
かみさまの ひみつです

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ほし


ひるま
ぼくがつくった
ちいさな池に
ほしが うつっている
すくおうとしたら
そのほしが
ぼくのゆびを かんだ
いたい!
ぼくのこころも
ひかった

そらのほしは
もっとおおきく
かみさまみたいに
ひかった

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なくしもの


どこでなくしたの と きかれたから
なくしたばしょを しんけんにかんがえた
いくらかんがえても わからないから
そういうと
ほんとに ぼんやりなんだから
と しかられた
もういちど よくかんがえてみて
たぶん あのとき
あそこかもしれない と いうと
なぜ そのとき
すぐに きがつかなかったの
と しかられた

ひとりに なってから
さっき いわれたと おなじことを
いいながら
じぶんで じぶんをせめた
かってもらったばかりだったんだもの
いちばん くやしいのは
ぼくだもの

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はるかぜ


なまけものが
たびを するときは
おひとよしの
はなのあたまに のって
ゆら ゆら ゆら ゆら

おひとよしが
たびを するときは
きまぐれな
はるかぜに のって
ふわ ふわ ふわ ふわ

ああ
いいてんき
いいてんき

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晴れた 朝
わたしのなかで
はねている
いっぴきの 光る魚
(いま わたしは 海だ)

未来が
なみになって
あとから あとから
おしよせてくる
(いま わたしは こんなに 青く ふかい)

あたらしいかぜが
ふいた

はねる魚
もっと深い おくへ

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けんか


(おとしあなを ほりながら)
─あいつは ほんとに
にくいやつ

(おとしあなを ほりながら)
─きょうは ぼくは
こどくなんだ

(おとしあなを ほりながら)
─あいつは いまごろ
なにしてるかな

(おとしあなを ほりながら)
─あした
てんきか
あめふりか

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さよなら きらきら


さよなら きらきら
ぼくの場所

さよなら きらきら
ぼくのうた

さよなら きらきら
あのひみつ

さよなら きらきら
とがったえんぴつ

さよなら きらきら
青いナイフ
さよなら きらきら
ちきゅうはまわる

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青い骨


まっしろなハンカチに
つつんだままの
青い骨

まつりに行けなかったときの 骨
おばけになってしまったときの 骨
うたをおぼえられなかったときの 骨
いまも
すこし痛がっている
青い


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木村信子詩集『でていった』 〈ジュニアポエム双書 41〉 

教育出版センター 1986年7月 初版発行 

さし絵・装丁画= 山本 典子 ISBN4-7632-4247-4 C8092

 

 

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